千一夜物語
牛鬼が真っ二つになって血しぶきを上げると、その血すら毒なため悪路王は跳躍して地に手をついて降り立った。
漲る妖気と殺気、そして怒気に、いかにこの鬼頭の当主――黎がこの帝に強い執着を抱いているかが見て取れる。
だがあくまでそれは守っていると見せかけて騙して食うつもりなのだろう。
人に真剣に寄り添う妖など見たことはない。
――悪路王はそう考えて、再びにやにやしながら腰に手をあてた。
「旦那も性格悪いなあ。どうせ食うつもりなのは分かってるんだ。おすそ分けに腕くらいくれよ」
「神羅の髪一筋もくれてやるつもりはない」
ひゅっと風が鳴った音がした。
ものすごい速さで向かってきた黎に刀を抜く余裕すらなかった悪路王は鞘に収まったままの刀を横に構えてその斬撃を受けた。
かなりの重力に本気で殺そうとしていると分かると、真剣勝負で鬼族の純粋な血統を受け継いでいる黎に勝てるわけもなく、悪路王は飛び退った後さらに跳躍して垣根に飛び乗って八重歯を見せて笑った。
「また仲間を連れて来るよ。旦那、俺はその女見逃すつもりはねえんだ。あんたがその女を食ってくれりゃいいんだけどなあ」
「…まだ食うつもりはない。逃げるつもりか?」
「旦那のお仲間がそこまで来てるからもう行くよ。じゃあまたな」
気さくに手を挙げて逃走した悪路王を追いかける時間はない。
すぐに解毒をしなければ、神羅は――
「黎様!」
駆けつけた牙と玉藻の前が真っ二つになった牛鬼と、そして神羅を抱きかかえた黎を見て駆け寄った。
神羅の顔色は真っ白で――もう死んでいるように見えた。
「…玉藻、解毒の法は会得しているか?」
「もちろんですわよ。…かなり強い毒を受けていますわね。黎様、わたくしにお任せ頂けます?」
「頼む、やってくれ」
「ひとまずここを離れましょう。瘴気が強すぎます」
牛鬼が放っていた毒霧が蔓延する御所を発った。
間に合ってほしい――
神羅を強く抱きしめながら、唇を噛み締めた。
漲る妖気と殺気、そして怒気に、いかにこの鬼頭の当主――黎がこの帝に強い執着を抱いているかが見て取れる。
だがあくまでそれは守っていると見せかけて騙して食うつもりなのだろう。
人に真剣に寄り添う妖など見たことはない。
――悪路王はそう考えて、再びにやにやしながら腰に手をあてた。
「旦那も性格悪いなあ。どうせ食うつもりなのは分かってるんだ。おすそ分けに腕くらいくれよ」
「神羅の髪一筋もくれてやるつもりはない」
ひゅっと風が鳴った音がした。
ものすごい速さで向かってきた黎に刀を抜く余裕すらなかった悪路王は鞘に収まったままの刀を横に構えてその斬撃を受けた。
かなりの重力に本気で殺そうとしていると分かると、真剣勝負で鬼族の純粋な血統を受け継いでいる黎に勝てるわけもなく、悪路王は飛び退った後さらに跳躍して垣根に飛び乗って八重歯を見せて笑った。
「また仲間を連れて来るよ。旦那、俺はその女見逃すつもりはねえんだ。あんたがその女を食ってくれりゃいいんだけどなあ」
「…まだ食うつもりはない。逃げるつもりか?」
「旦那のお仲間がそこまで来てるからもう行くよ。じゃあまたな」
気さくに手を挙げて逃走した悪路王を追いかける時間はない。
すぐに解毒をしなければ、神羅は――
「黎様!」
駆けつけた牙と玉藻の前が真っ二つになった牛鬼と、そして神羅を抱きかかえた黎を見て駆け寄った。
神羅の顔色は真っ白で――もう死んでいるように見えた。
「…玉藻、解毒の法は会得しているか?」
「もちろんですわよ。…かなり強い毒を受けていますわね。黎様、わたくしにお任せ頂けます?」
「頼む、やってくれ」
「ひとまずここを離れましょう。瘴気が強すぎます」
牛鬼が放っていた毒霧が蔓延する御所を発った。
間に合ってほしい――
神羅を強く抱きしめながら、唇を噛み締めた。