千一夜物語
それから数時間後再び目覚めた神羅は、ぼんやりしながら何が起きたのか思い返していた。
確かあれは神社に渡ろうとして庭を突っ切っていた時のこと。
突然黒い雲が上空に湧き出たと思うと、その空から蜘蛛の身体をした妖が降ってきた。
ただでさえ足の多い生き物が苦手なのに…
黎が居ないことが悔やまれたが、もう淡い想いを抱いてはいけないと距離を取って間もないのに、助けを求めることはできない。
「へえー、あんたが帝?まだ小娘じゃん」
その巨大な妖の背に人が乗っているのを見た神羅は、いつも持ち歩いている弓を引き絞って照準を定めながら唇を噛み締めた。
「お前は何者ですか!?」
「あんたが俺たちを殺す武器をせっせと作ってるって聞いて殺しに来た者でーす!」
軽い口調に大きな目の短髪の闊達そうな男。
同い年位に見えて、黎のように人型の…いや、人なのだろうか?
「まさか…お前が悪路王…」
「そうでーす!あんたの傍についてる鬼頭の旦那は居ないんだな。ちょっと会ってみたかったんだけど」
「…黎は来ません。ですがお前を殺す術を私は持っていますからね!」
からから笑っていた悪路王目掛けて矢を放つと、見事に右腕に命中して鮮血が飛び散った。
だが悪路王はそれを痛がることもなく、受けた矢を引き抜いて投げ捨てた。
「へえ、これが妖を殺す力を込めた矢か。やっぱり今ここで殺しとかないとな」
――そこからは乱戦になった。
近衛兵たちも加勢してくれたものの、足で薙ぎ倒されたり毒を受けて即死したり――陰惨な光景を前に、神羅は何度も心の中で黎を呼んでいた。
「…そしてお主は来てくれた」
傍で手を握ってくれたまま少しうとうとしていた黎の手をきゅっと握ると、すぐ目が開いてやわらかく笑いかけてきた。
「助けに行くのが遅れた。すまない」
「いえ…私の方こそごめんなさい。ありがとう…」
全身が痛む。
神羅は顔をしかめながらも黎に支えてもらいながら起き上がり、そして――胸に受けた傷口に手をあてた。
確かあれは神社に渡ろうとして庭を突っ切っていた時のこと。
突然黒い雲が上空に湧き出たと思うと、その空から蜘蛛の身体をした妖が降ってきた。
ただでさえ足の多い生き物が苦手なのに…
黎が居ないことが悔やまれたが、もう淡い想いを抱いてはいけないと距離を取って間もないのに、助けを求めることはできない。
「へえー、あんたが帝?まだ小娘じゃん」
その巨大な妖の背に人が乗っているのを見た神羅は、いつも持ち歩いている弓を引き絞って照準を定めながら唇を噛み締めた。
「お前は何者ですか!?」
「あんたが俺たちを殺す武器をせっせと作ってるって聞いて殺しに来た者でーす!」
軽い口調に大きな目の短髪の闊達そうな男。
同い年位に見えて、黎のように人型の…いや、人なのだろうか?
「まさか…お前が悪路王…」
「そうでーす!あんたの傍についてる鬼頭の旦那は居ないんだな。ちょっと会ってみたかったんだけど」
「…黎は来ません。ですがお前を殺す術を私は持っていますからね!」
からから笑っていた悪路王目掛けて矢を放つと、見事に右腕に命中して鮮血が飛び散った。
だが悪路王はそれを痛がることもなく、受けた矢を引き抜いて投げ捨てた。
「へえ、これが妖を殺す力を込めた矢か。やっぱり今ここで殺しとかないとな」
――そこからは乱戦になった。
近衛兵たちも加勢してくれたものの、足で薙ぎ倒されたり毒を受けて即死したり――陰惨な光景を前に、神羅は何度も心の中で黎を呼んでいた。
「…そしてお主は来てくれた」
傍で手を握ってくれたまま少しうとうとしていた黎の手をきゅっと握ると、すぐ目が開いてやわらかく笑いかけてきた。
「助けに行くのが遅れた。すまない」
「いえ…私の方こそごめんなさい。ありがとう…」
全身が痛む。
神羅は顔をしかめながらも黎に支えてもらいながら起き上がり、そして――胸に受けた傷口に手をあてた。