千一夜物語
澪が毎日平安町に出かけたがるようになると、さすがに黎は少し心配になっていつも護衛について行っている牙にそれを問うた。


「澪は毎日何をしに行ってるんだ?」


「ここまで連れて来てくれた護衛の男と会ってるみたいだけど、こそこそやってて顔が分かんねえんだよなー」


「…よく調べろ。何かあったらどうする」


「出た出た黎様の心配性!」


普段は放任主義のように見えるが、一旦懐に入れると始終目をかけてくれる黎が神羅に惚れているとしても、澪のこともかなり気に入っているのは見ていて分かる。

よく知りもしない男と会っていると聞けばやはり気になるし心配になるし、今も牙の前で眉を潜めて考え込んでいた。


「調べときゃいいんだろ?次会いに行く時はべったり隣にいるから!」


「その時はいつものようにちゃんと尻尾と耳を隠すんだぞ」


妖が町中をうろついていると知られれば恐慌状態にもなりかねないため、黎は相変わらず礼節を弁えてそこを重要視していた。


「黎さん、今日も平安町に…」


「…澪。お前が会っている男は安全なのか?身元は?」


身の回りの物を揃えて化粧もちゃんとして身なりも少し洒落た感じになっている澪は、目を丸くして縁側に座っている黎の隣に腰かけると、その顔を覗き込んだ。


「身元とか知らないけどひとりで不安だった私に声をかけてここまで連れて来てくれた人だよ?悪い人なわけないでしょ?」


「そうか?女の一人旅に付け込んでお前をどうにかしようと思っていたかもしれないぞ」


「あはっ、黎さん心配性!」


澪にも心配性と言われてしまって口をへの字にしていると、澪は黎の足元に伏せてやはり心配そうにしている黒縫の前でしゃがんで身体を撫でてやった。


「大丈夫だよ、すっごくいい人だから。ていうか護衛してくれたのは六郎さんなんだけど今どこかに行ってるらしくて、お友達の七尾さんって人と会ってるの。七尾さんもとってもいい人だから心配しないでね。じゃあ行ってきまーす」


澪が縁側を離れると、黎は牙に静かに声をかけた。


「目を離すな」


「りょーかい!」


嫌な予感がしていた。
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