千一夜物語
黎から澪との出会いの経緯を聞いた神羅は――正直それを羨ましく思って、気落ちしした。

ふたりは今後も長い生を共に生きてゆける。

だが自分は…帝として縛り付けられて、黎との人生を共に歩むわけにはいかない。

直系最後の者として婿を迎えて子を為して――この国をもっと豊かなものにしなくてはならない。


「それは…何も問題がなさそうですね。澪さんは許嫁で、お主も澪さんを好いている。…夫婦になればいいではありませんか」


なるべく穏やかな口調で言ったつもりだが、やはり剣のある感じになってしまって反省していると、黎は神羅の顎を取って上向かせてきっと睨んだ。


「本気でそう思っているのか?」


「…では私にどうしろと?」


「…お前も俺と同じ気持ちなら…俺はお前を妻に迎えたい」


「……え?な…何を言って…私は人ですよ!?」


「人も妖も関係ない。俺はお前に惚れて、お前は俺に惚れている。これこそ何の問題がある?澪にはもう話はしてある。お前と澪、双方を妻に迎えたいと」


…なんと勝手な男よ。

そう思いつつも、妻に迎えたいと言われて嬉しくなって、それがつい笑顔となって表れてしまった神羅は、黎にそっと指を握られて俯いた。


「…私は死にますよ」


「…知っている。だから残りの人生を俺と共に生きてほしい」


「…私は帝ですよ」


「国を動かすのが直系でなければならないという決まりはないはずだ。もし決まりがあるのならお前がそれを覆せ」


「ふふ、相変わらず勝手な」


怒る気が失せた。

また澪にも同情して、自分たちはなんと勝手な男を好いてしまったのかと自身に呆れながら身体を横たえた。


「理解してもらえたか?」


「理解するには時間が必要です。少し考えさせて下さい」


「考えたとしても答えはひとつしかない。お前と澪、両方とも俺の嫁になる。それしかないんだ」


「馬鹿。助平。我が儘」


散々文句を言われたものの、黎はめげることなく神羅の床に潜り込んで背中から抱きしめながらじっとしていた。


黎もまた動揺しながらも正直に思いを伝えようとしている――その誠実を無下にはできなかった。
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