千一夜物語
黎が出て行った後黒縫に事情を話した澪は、黒縫が牙を見せてにかっと笑ったのを見て唇を尖らせた。


「何がおかしいの?私があっさり仮面の方…ええと、黎さんなんだけど…諦めたから?」


『いいえ、黎様はできたお方です。きっと澪様のことも神羅様のことも平等に愛して下さいます』


「…神羅さんはそれでいいのかな」


『澪様はそれでいいと思っているんでしょう?でしたら話をしてみては』


黎のように美しく強い妖を独り占めにすることは至極難しい。

ましてやその黎に惚れていると言われたのだから、正直言って無条件にその胸に飛び込んで抱かれたい位だ。


「私…神羅ちゃんと喧嘩したくないの。だから神羅ちゃんが話をしたいと言ってくれるまで待とうかなと思って」


『あなたの思うようになさるといいですよ。ああ良かった!黎様はやはり澪様を好いていたんですね!』


喜ぶ黒縫が蛇の尾をぶんぶん振ると、澪はその尾を掴んで蛇の口を掴んだ。


「でも!私だけを好きってわけじゃないんだから!分かってるけど…複雑だなあ…」


「家柄的にそれが認められているのですから、黎様にとっては何ら問題ではないのでは?澪様と神羅様の気持ちを第一に考えてらっしゃいます。ですから迷う必要はありませんよ」


「黒縫は黎さんが仮面を被ってた時から懐いてたよね。だから嬉しいんでしょ?」


『ええ、見た時すぐに獣型の妖が好きな方だと分かりましたから。敵意も全くありませんでしたし、話しているうちにとても好意を覚えました』


――自分も神羅も幸せになれる――

神羅のことは好きだけれど、あちらは自分のことをどう思っているのだろうか?


「私…明日神羅ちゃんと話をしてみようかな。どう思う?」


『いいと思いますよ。きっと皆が幸せになれます』


「そっか…うん、じゃあ今日はもう寝よっか!」


黎との優しくも激しい口付けを思い返しながらも、幸せな気分に浸って眠りについた。
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