千一夜物語
巡回に出ていた黎の表情が心なしがすっきりしたように見えた牙は、大きな狗神姿のまま黎の隣をのしのし歩きながら顔を覗き込んだ。


「黎様なんかいいことあった?」


「いいことと言うか…すっきりはした」


「何がすっきり?そこんとこ詳しく!」


ぴんときていた玉藻の前と共に三人でまだ未開拓の野原の上に座って昨晩の出来事を話した黎は、牙の顔がみるみるにやけてきて額をぺしっと叩いた。


「何を笑っている」


「え、だってふたりとも嫁さんになるんだろ?俺の思った通り!黎様の子の顔が見れるのも近いな!」


「いや、神羅からも澪からも返事は貰ってないが」


「惚れ合った仲じゃん。嫌だっていうわけねえよ!めでたい!超めでたい!」


――そう、返事は貰っていない。

一緒に寝ていた神羅は薬が効いていて起きなかったし、澪は部屋から出て来なかったため、そのまま出て来た黎は、どんな顔をして会えばいいのかもやもやしながら屋敷に戻り、足をぶらぶらさせながら縁側に座っていた澪を見つけて足を止めた。


「あ、黎さんお帰りなさい」


「ん」


言葉少なに隣に腰かけると――澪は黎の顔を思いきり覗き込んで驚いた黎が身じろぎをした。


「な、なんだ?」


「ねえ、黎さんのお父様って一緒に寝る時どうしてるの?部屋は別々?」


「いや…そういえば三人で寝ていたな」


「!れ、黎さんのお父様が真ん中ってこと!?」


確かそうだったなと思い返した黎は――同じ状況を自身に置き換えてみて…顔が赤くなるのを感じて澪とは反対側にぷいっと顔を背けた。


「ふうん、三人で、かあ…。それは楽しそうだね」


何が楽しいんだと内心突っ込みを入れながらさらに想像を重ねてしまって今度は本当に顔が赤くなっているのを感じた黎が俯いていると――部屋から神羅が出て来た。


「黎?顔が赤いですよ」


「…うるさい」


真っ赤になっていた。
< 159 / 296 >

この作品をシェア

pagetop