千一夜物語
…とうとう三人揃ってしまった。

これは三つ巴ではなく痴情のもつれでも断じてないと分かってはいるが、三人とも妙に緊張してしまって黙り込んでいると、澪が突然含み笑いを始めてその空気を打ち破った。


「ふふふふふ」


「み…澪さん?」


「なんだか不思議な状況だよね。でも黎さんは…本気なんだよね?」


「…ああ。どちらか片方を選ぶという選択肢は俺にはない。またお前たちから断られるという想定もしていない」


――さすがに澪と神羅の口があんぐり開くと、吹き出してしまった黎は、呆れながら傍に座った神羅に肩を竦めて見せた。


「断らないだろう?」


「返事はまだ出来かねると言ったはずですが」


「断るはずがない。澪、お前もだ。俺は父があまり好きではなかったが、母ふたりと今も仲睦まじくやれていることに関しては尊敬している。俺たちもきっと…うまくやっていける」


澪に異論はなかった。

仮面の男は黎であり、元々その男を待っていたのだから正体が黎だと知って断るはずがない。

ただ神羅は微笑むばかりで、普段気が強く強情張りな神羅の僅かな異変に気付いた黎は、鼻を鳴らしてごろんと横になった。


「人だの妖だの妙なしがらみは捨ててくれ。選択を早まる必要もない。逃げれば追う。追って仕留める。狙った獲物は逃がさない性質なんでな」


澪は黎のさらさらの黒髪におずおずと手を伸ばして、不遜な笑みを浮かべている黎にどきどきしていた。

自分は今すぐ返事をしたいほどなのに、神羅の表情は曇ったまま。

これは何が何でも神羅を説得して黎の父のように三人で一緒に寝るほど仲睦まじい夫婦になりたい。


そう真剣に思って意気込んでいた。
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