千一夜物語
男の全力で本気の力の前には自分の抵抗など微々たるもの――

今まで優しくしてくれていた悪路王の豹変しきった姿は澪に想像を絶する恐怖感を植え付けて、泣き叫んだ。

だが澪の切迫した懇願と表情に逆に煽られた悪路王は、いつものように力技で奪わんと澪の肌襦袢を爪で引き裂いた。


「やめ、て…!お願い、やめて!」


「あんたもう鬼頭の旦那に抱かれたんだろ?純潔を捧げたんだろ!?だったら…俺にもお零れをくれよ!許せねえ…!鬼頭の旦那…!」


――本来は、帝の命を奪えれば良かった。

だが澪が現れ、黎が現れ――

予定が狂いに狂って、今やもう黎を憎む気持ちが膨らむばかり。

澪に優しい男だと思ってもらいたかったのに…

もうこれでは、そんなささやかな願いも水の泡だ。


「こんなに痕つけられて…!旦那は独占欲が強そうだもんな!だけど旦那はあんたを抱いた後、帝のあの女も抱くんだぜ!あんたそれでもいいのかい!?」


露わになった肢体を前に息は乱れに乱れて、足をばたつかせてもがく澪の唇を奪いたくて顔を寄せるが顔をよじって何度も避けられて、怒りは増していった。


「触らないで!」


「いいや、あんたは今から俺に凌辱されるんだ。もう鬼頭の旦那の元には戻れねえようにしてやる!涼しい顔して何もかも手に入れやがって…!」


これ以上はないというほどに興奮しきって目の色が赤くなっている悪路王は、最早澪の知っている優しい男ではない。


黎の元に戻れないなんて――絶対に嫌だ。


「いや…!やだ、黎さん、黎さん…っ!!」


お前が助けを求めている男なんて来ない――

そう言おうと顔を歪めて言い放とうとした時――


外で轟音が鳴り響き、強烈な妖気が悪路王を身震いさせた。
< 177 / 296 >

この作品をシェア

pagetop