千一夜物語
鳥居がある建物は神聖な力が働き、妖は侵入することができない。

できないけれど、できないこともない。

大妖であれば多少力が弱ったり怪我をすることはあっても侵入可能で、黎は今までも何度か神社などに立ち入っては徳の高い坊主や巫女などを食った経験があった。


「鳥居か。じゃああの中で武器を製造しているということか?」


大量の武器が出回ってしまえば人と妖の間で戦になるだろう。

それ自体別にどうも思わないし妖が勝つに決まっているのだが――食い扶持が減る。

人を食わなければ生きていけない妖ではない黎にとって人が恐怖に震える顔を見るのが楽しいと思っているし、味もそこそこ美味いと思っているから、食っている。


だが人の世界を妖が支配するのはどうかとも思っている。

自分たち妖は自分たちで違う世界があるのだから。


「ちゃんと住み分けされていたから口出ししなかったものの…全面戦争をする気か?」


面白い、と思った。

女帝が妖に喧嘩を売る――どんなに気が強い女なのかとわくわくしながら、女帝が神社の中に入って行った後、鳥居の前に立って天叢雲を鞘から抜いた。


「斬れんとは言わないだろうな」


『我に斬れぬものなどないわ』


啖呵を切った天叢雲を鳥居に向けて袈裟切りにすると、ぷつんと何かが切れたような音がした。

今の衝撃で女帝にはもう伝わったはずだ。

もう存在を隠す必要もない。


「さてさて、お邪魔するか」


木製の観音開きの扉に手をかけて、意気揚々と開いた。


「ん…?」


耳の側でひゅっと音が鳴ったかと思ってなんとなく頬に触れてみると――頬から出血していて前方に目を遣った。


「お主は何者ですか…!?」


巫女装束によく似た神官衣がとてもよく似合う目の吊った気の強そうな美女が、弓を構えて睨んでいた。


「ふうん、お前が帝か?」


「如何にも。お主は妖ですね…!?」


「如何にも。どんなものかと思って見に来てやったぞ」


舌なめずり。

女帝は再び弓を構えて、黎を最大限警戒した。

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