千一夜物語
黎はやや冷静を取り戻した。

神羅が子を生むまでは、神羅を諦めない。

その後も淡々と百鬼夜行を続けた黎は、敵がその強さと美しさに参って傘下に入りたいと申し出てくる機会も増えて、仲間をどんどん増やしていった。

だがやはり対抗勢力を作るきっかけにもなり、人の世は平和になったものの、妖同士での諍いは収まるどころか増えるばかりで、黎の潜在能力は戦う度にどんどん開花していって、最強と謳われるようになった。


だが…

朝が来て眠ろうとすると、やはり悪夢にうなされて眠れない時がある。

そういう時は必ず澪が傍に居てくれて、看病してくれた。

そうしているうちに絆も強くなり、以前よりも格段に澪の存在は黎の中で大きいものとへとなっていったが――


やはり神羅の動向が気になり、烏天狗を張り付かせてその様子を逐一報告させていた。


「懐妊していることは間違いないようですが、何故か夫の業平殿とは距離を取っている様子です」


「…そうか。悪阻もあるだろうし、一時のことかもしれないな」


「そうでしょうか?業平殿と一緒に居る姿はあまりお見掛けしておりませんが」


「そう…なのか?…まあいい、偵察を続けてくれ」


以前以上に、暴れる妖を退治してほしいという文は舞い込んできていた。

黎はその全てを拒絶することなく、増え続ける百鬼の中から毎回違う顔ぶれを選定させて率いたが――自分自身は休むことなく、戦いに明け暮れた。


そうこうしているうちに神羅と別れてから九か月が経った。


黎の髪も長くなって紐で結ばなければ鬱陶しくなるようになり、冬に入って息を白くさせながら曇天の空を見上げていると、偵察させていた烏天狗が黎の前で膝を折って報告にやって来た。


「黎様、帝に動きがございます」


「…なんだ?」


気が逸る。

胸元を押さえるのが癖になり、そうしながら烏天狗の報告を受けた。
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