千一夜物語
肩を落として意気消沈している様を隠せない黎を出迎えた澪は、すぐさま熱い湯に浸からせて身体を温めさせてやった。
…黎は一言も発さず、ずっと何かを堪えている表情をしていた。
何が起きたのか分からず、またそんな黎を問い質すこともできなかった澪は、黎が言葉を発するまでじっと待っていた。
「…業平の子だった」
「!…黎明さん…疑ってたの?」
「…あの一夜、神羅をこの手で抱いた。だから…俺の子かもしれないと思ったんだ」
「そう…だったんだ…。赤ちゃんを見てきたの?」
「いや…だが鬼族の子なら額に角がある。誰が見ても分かるはずだ。だが僧たちは喜んでいた。だから…違うんだろう」
「そっか…」
「澪…俺は神羅を諦める。お前を悩ませ、苦労をかけたな。…本当にすまない」
「ううん…。黎明さんはそれでいいの?」
澪はうなだれる黎をぎゅうっと抱きしめながら涙ぐんだ。
黎が少しの期待をかけて我が子かもしれないと思って神羅の出産を見届けたこと――それは責められない。
そして、もし黎の子だったら、自分は黎の子を産めないということ。
…そうだとしても、黎の傍に居ることの方がずっと大事に思えていた。
「…そうする他ない。もう悩みたくないし、神羅を迷わせたくない。そしてお前のことも。…だから…」
「うん…うん、もう言わなくてもいいよ黎明さん。よく頑張ったね。よく泣かないでいたね…」
黎が背中に腕を回して抱き着いてきた。
澪はしがみつくようにして抱きしめてきた黎をぎゅうっとまた抱きしめて、悲しみを分かち合った。
…黎は一言も発さず、ずっと何かを堪えている表情をしていた。
何が起きたのか分からず、またそんな黎を問い質すこともできなかった澪は、黎が言葉を発するまでじっと待っていた。
「…業平の子だった」
「!…黎明さん…疑ってたの?」
「…あの一夜、神羅をこの手で抱いた。だから…俺の子かもしれないと思ったんだ」
「そう…だったんだ…。赤ちゃんを見てきたの?」
「いや…だが鬼族の子なら額に角がある。誰が見ても分かるはずだ。だが僧たちは喜んでいた。だから…違うんだろう」
「そっか…」
「澪…俺は神羅を諦める。お前を悩ませ、苦労をかけたな。…本当にすまない」
「ううん…。黎明さんはそれでいいの?」
澪はうなだれる黎をぎゅうっと抱きしめながら涙ぐんだ。
黎が少しの期待をかけて我が子かもしれないと思って神羅の出産を見届けたこと――それは責められない。
そして、もし黎の子だったら、自分は黎の子を産めないということ。
…そうだとしても、黎の傍に居ることの方がずっと大事に思えていた。
「…そうする他ない。もう悩みたくないし、神羅を迷わせたくない。そしてお前のことも。…だから…」
「うん…うん、もう言わなくてもいいよ黎明さん。よく頑張ったね。よく泣かないでいたね…」
黎が背中に腕を回して抱き着いてきた。
澪はしがみつくようにして抱きしめてきた黎をぎゅうっとまた抱きしめて、悲しみを分かち合った。