千一夜物語
神羅の決意
黎と一夜を共にした時――
これからは自分を偽り続けて生きてゆくしかないと思った。
夫に選んだ業平を愛するふり…
政務を己の務めと定めたふり…
ただ、確たる信念だけは持ち続けていようと思った。
黎に託した、‟人と妖の懸け橋”という存在に互いになって、そうすることで黎と繋がっていよう、と。
「黎…」
黎が去った後、業平と夫婦になるという一報は朝廷を大混乱に陥れた。
最初の神羅の報告は‟浮浪町を懇意になった妖に一任する”という凶事であり、そして業平との婚姻は慶事であり、ただ神羅自身は黎との一夜が忘れられず、ひとりきりになった時は自室に籠もって身体を丸めてうずくまり、耐えていた。
「神羅様。今日を境に私たちは夫婦となります。共に我が国の民を導き、繁栄させてゆきましょう。ああ、あなたが我が妻になる日が来ようとは」
業平に手を握られ、愛しげな目で見つめられても、なんの感慨も浮かばなかった。
そして婚姻の儀は朝廷にて大々的に行われ、普段は御簾の中で過ごすことの多い神羅は豪奢な衣装に身を包み、顔を隠さず、まるで晒し物にされているような気分になっていた。
頭を串刺しにしているような多数の簪がとても重たくて、皆の喜びに満ち溢れた目で見つめられる度に、自分は彼らを裏切っているのだと痛感して心を痛めた。
「これは偽装の夫婦…。私は嘘でこの身を塗り固めて生きてゆくしかないのね。黎…主さま……」
湯浴みを終えて、真っ白な浴衣を着せられて、業平との初夜を迎えたのは――黎と別れてから七日後のこと。
きっと業平は自分のことを生娘だと思っているだろう。
声を上げて痛そうにしなければならない。
夫を想う貞淑な妻を装わなければならない。
「神羅様…」
正座してじっとしていた神羅の前に業平が笑みを湛えてやって来た。
神羅は自身を偽装した。
私は夫を愛している、と。
これからは自分を偽り続けて生きてゆくしかないと思った。
夫に選んだ業平を愛するふり…
政務を己の務めと定めたふり…
ただ、確たる信念だけは持ち続けていようと思った。
黎に託した、‟人と妖の懸け橋”という存在に互いになって、そうすることで黎と繋がっていよう、と。
「黎…」
黎が去った後、業平と夫婦になるという一報は朝廷を大混乱に陥れた。
最初の神羅の報告は‟浮浪町を懇意になった妖に一任する”という凶事であり、そして業平との婚姻は慶事であり、ただ神羅自身は黎との一夜が忘れられず、ひとりきりになった時は自室に籠もって身体を丸めてうずくまり、耐えていた。
「神羅様。今日を境に私たちは夫婦となります。共に我が国の民を導き、繁栄させてゆきましょう。ああ、あなたが我が妻になる日が来ようとは」
業平に手を握られ、愛しげな目で見つめられても、なんの感慨も浮かばなかった。
そして婚姻の儀は朝廷にて大々的に行われ、普段は御簾の中で過ごすことの多い神羅は豪奢な衣装に身を包み、顔を隠さず、まるで晒し物にされているような気分になっていた。
頭を串刺しにしているような多数の簪がとても重たくて、皆の喜びに満ち溢れた目で見つめられる度に、自分は彼らを裏切っているのだと痛感して心を痛めた。
「これは偽装の夫婦…。私は嘘でこの身を塗り固めて生きてゆくしかないのね。黎…主さま……」
湯浴みを終えて、真っ白な浴衣を着せられて、業平との初夜を迎えたのは――黎と別れてから七日後のこと。
きっと業平は自分のことを生娘だと思っているだろう。
声を上げて痛そうにしなければならない。
夫を想う貞淑な妻を装わなければならない。
「神羅様…」
正座してじっとしていた神羅の前に業平が笑みを湛えてやって来た。
神羅は自身を偽装した。
私は夫を愛している、と。