千一夜物語
業平は武官ではなく文官であり、刀を握って戦に出ることはまずない。

灯りがひとつだけつけられた部屋で業平に優しく押し倒されて浴衣を脱いだ時――黎とは全く違う身体つきに、落胆の色を隠せなかった。

こうも違うのか、と思った。

少しでも黎に似ている部分があれば愛せるのに、とまた黎を想ってしまって涙ぐむと、業平はそれを不安からの涙だと勘違いして、慰めてきた


「神羅様、私にお任せ下さい。なるべく痛みのないよう努力いたします」


「………はい…」


ゆっくり浴衣を脱がせられて、神羅の瑞々しく若い肢体を見た業平が思わず喉を鳴らした。


ああ、私はこれから獣に食われてしまうのか――


だんだん恐怖心が沸き上がってきて手で身体を隠そうとしたが、業平は我欲に取りつかれて、覆い被さって来ると、がむしゃらに唇を求めてきて、唇で身体を愛してきた。


だが――驚くべきことが神羅の中で起きていた。

唇を這う感触もなく、痛みもなく、また快楽もない。

何をされているかも分からず、ただ業平の表情から自分とは違って快感を覚えている顔をしていて、悟った。


自分は全身全霊を以て業平を拒絶しているのだ、と。


…こんなのは、目を閉じていればすぐに済む。


「神羅様…!」


恍惚とした声で名を呼ばれて、はっとした神羅はわざと押し殺した声を上げて痛みを感じているふりをした。

本当は痛くもなく、気持ちよくもないのに。


――黎と共にした一夜とは、全く違う。


業平に抱かれる度に黎と比べて、何の感覚もない自分を喜んで抱きに来るのかと思うと、業平に罪悪感を覚えた。


これは許されないことだ。


もう二度と抱かれたくない――


神羅は業平の背に手を回すこともなく、人形のようにじっとしたまま、初夜を終えた。
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