千一夜物語
まず自分がしなければならないのは――黎との契約の内容にある通り、妖を殺すことができる力が込められている武器を全て回収することだ。

この取り決めは朝廷ひいては業平からかなりの反対を受ける形となった。


「神羅様、それは承服致しかねます。我々には妖に襲われた際対抗しうる武器が必要です。それを取り上げられては…」


「要は妖が襲って来なければいいのでしょう?その点に関してはしっかり幽玄町の者と約束を交わしたので大丈夫」


連日机に齧りついていた神羅は、武器を収めている蔵を管理している各地の役所や神社仏閣に至るまでの者たちに直筆で文を書いていた。

役所から出される冷めた内容の文で彼らの心を動かすことはできない。

帝の自分自らが熱く思いを語ることできっと理解してもらえる――そう信じて、眠ることも厭わず書き続けていた。


だからこそ、業平との夫婦の営みを避け続けることができていた。


…最初のうちは、疑われなかった。

だがそんな暮らしがひと月を過ぎた頃――さすがにおかしいと感じたのか、業平は連日部屋へ来るようになり、それが苦痛だった神羅は久々に業平と向き合った。


「業平…私は多忙なのです。寝る間も惜しんで妖と取り決めた内容を現実にせんと奮闘しているんです。…だから今夫婦の時間を持つことはできません」


「神羅様…あなたの意思は尊重いたします。幽玄町のあの者も…黎と申しましたね、彼奴があなたとの取り決めを守って行動しているのも聞いております。ですが…私とあなたの子をもうけるのもまた務め。そうではありませんか?」


押し黙った神羅の手をそっと握った業平は、忍んで恋をしていた女に久々に触れることができて、喜びを隠せずに神羅の耳元で囁いた。


「どうか今宵は私と共に…。あなたとの一夜が忘れられず身を焦がしている私の腕にあなたを抱かせて下さい」


「…!やめ、て…っ」


悲鳴が競り上がってきた。


一夜が忘れられない――?

そんなのもうずっと、私は身を焦がし続けて、焼け死んでしまいそうなほどに毎夜想っているわ。


あの愛しい方を――
< 244 / 296 >

この作品をシェア

pagetop