千一夜物語
黎の率いる百鬼夜行が成果を上げ始めていた。

妖に襲われたという報告が減り、それが一時的になりを潜めているとしても、それは成果だ。

黎が自身の身を盾にして妖と戦い、こちらに矛先が向かないようにしてくれている――とても嬉しいことだったが…


「…月ものが…来ない…!」


ふた月を超えた時、不安が神羅を襲った。

まさか…まさか身籠ったのではないのか?


業平との子なのか?

それとも――


「う…っ」


急に猛烈な吐き気が襲ってきて自室で膝をつくと、ついていた女房が慌てて部屋を飛び出して行った。

すぐさま業平と薬師が呼ばれて検診を受けた神羅は――その現実を突きつけられた。


「おめでとうございます、ご懐妊でございます!」


「なんと…!」


業平としても神羅との夫婦の営みはたった一度しか体験しておらず、その後は多忙だからと拒まれ続けていたため、一度で身籠った神羅の手を喜びに満ちた顔で握った。


「神羅様…!私たちの子が産まれるのですね!」


「………え、ええ…」


床に寝かされた神羅は、不安に目を泳がせながら口ごもった。

業平との初夜は正直なにも覚えていない。


だが黎との一夜は――


何度も何度も愛されて、声も枯れ果てる位に愛されて、その一夜で身籠ったとなれば、なんという喜びなのだろうかと素直に思った。


「お喜び申し上げます!」


女房たちから次々と祝いの言葉をかけられた。

だが神羅は――不安を拭えずにいた。


産まれるまでは、どちらの子か分からない。

そして黎はこのことを知ったらどう思うだろうか?


…愛を告げた女が、自分ではない男の子を身籠る――


「黎…」


布団を被って声を押し殺して名を呼んだ。


助けて。

助けて。

誰か、助けて――
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