千一夜物語
どっと冷や汗が噴き出た。

ひとりで立つこともできず、屈強な僧兵に抱えられて部屋に戻ると、大僧正がてきぱきと指示を出して僧たちが駆けずり回る中、あまりの痛みに奥歯が砕けてしまうのではないかと思うほど歯を噛み締めて苦痛の声を漏らした。


「こんなに、痛い、もの…なの、ですか…!?」


「人が人を産むのだ、当然のこと。…いや、これには語弊があるな。人が鬼を、かな?」


大僧正が和ませてくれようとして冗談を言うと、神羅は腹がぼこぼこ動いているのを見て何度も呼びかけた。


「大丈夫、ちゃんと産んであげるから…!」


「安産ならば、そう時間はかからぬが…難産ならば三日三晩苦しむ者も居る。神羅よ、耐えれるか?」


「耐えなければ…!絶対に産むから…!」


息が上がり、激痛とそうでないときの間隔があり、あまり痛みを感じない時に水を飲み、なんとか耐えた。

すぐに産まれてくると思っていたのに痛いだけでなかなか生まれ落ちてくれず焦りが募り、二日目を迎えた。

体力は底をつき、眠ろうとしてもまた激痛に襲われて、もう駄目かもしれないと思った。


「駄目、なの…?産まれたく…ないの…?父様に…会いたいのではないの…?」


か細い声でそう呼びかけた時――するすると下腹部の下へ下へ移動してきたのが分かった。


「神羅よ、頭が見えたぞ!力みなさい!」


あんなに痛かったのにその感覚がなく、力の限り力んだ。

叫び声を上げながら力んで力んで――ぎゅうっと目を閉じて力の限り力んでいると――


「んぎゃあ、んぎゃあっ!」


「あぁ…産まれて…きてくれた…」


大僧正自らが赤子を取り上げて、神羅の胸に抱かせた。


――額の左右には、小さな角が。


「ふふ…はじめまして。母様ですよ」


「ふぎゃ、おぎゃあっ!」


元気な産声。

疲れ果てたはずなのに、赤子の顔を見た途端力が湧いてきて、しっかり我が子を抱きしめた。
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