千一夜物語
それからの展開は――やはり、次代の当主にと黎が言い始めたため、奪い取られてしまうと分かって抵抗し続けた。
だがひとつ違ったのは――
黎が子だけではなく、自分さえも手元に置くと言い出したこと。
まだ諦めていなかったのかと思うと、その執念と独占欲に思わず笑ってしまうほどだった。
退位した今、本当は障害など何もない。
己の願望としては、桂と慎ましやかにひっそり暮らしていくことだったが…黎に見つかってしまった今、それは到底叶わない願いとなった。
桂と暮らすには――黎と共に在ること。
だが、黎の傍にはすでに澪の存在が在る。
澪の心情だけが気がかりで――自分の想いはやはり黎にあるのだと会ってまた再確認していた神羅は、澪が許してくれるならば…生涯を飛ばして澪に頭を下げ続ける覚悟で、黎に澪の心情を問うた。
「澪さんが許してくれるなら…」
「…わかった。澪に全てを話してくる。だからもう逃げるな」
そう言われて、妖の頂点ともいえるべき立場の男から逃げ続けることなど本当はできないことは分かっていたのに、無様にひとり悩んで逃げ続けていたことが馬鹿馬鹿しくなって、腕に抱いた佳の顔を黎によく見せてやった。
「桂と言うの。私が名を付けたわ。いいでしょう?」
「桂…月の木の名か。そうか…今は月が出ていたな。…名の響きは俺の名にちなんで付けてくれたのか?」
「思い上がらないで。単に思いついただけよ」
強がると、そのつんけんした態度を懐かしく思ったのか――また黎に抱きしめられて、ふいに泣きそうになって声を詰まらせながら言った。
「お願い、澪さんが私たちが幽玄町へ行くことを拒んだら…ここで暮らすことを許して。お願い」
「…分かった。その時は俺がここに通い続ける。一年前と大して変わらないな」
「違うわよ。私はお主の妾のようなもの。全然違…」
「妾なんかじゃない。お前も澪も、俺の嫁だ。四の五の言わず待っていろ。必ず明日いい返事を持ってくる」
「…はい」
澪は本当に許してくれるだろうか?
この子と会った時、なんと言うだろうか?
――やっぱり怖くて、黎の袖をぎゅっと掴んで俯いた。
だがひとつ違ったのは――
黎が子だけではなく、自分さえも手元に置くと言い出したこと。
まだ諦めていなかったのかと思うと、その執念と独占欲に思わず笑ってしまうほどだった。
退位した今、本当は障害など何もない。
己の願望としては、桂と慎ましやかにひっそり暮らしていくことだったが…黎に見つかってしまった今、それは到底叶わない願いとなった。
桂と暮らすには――黎と共に在ること。
だが、黎の傍にはすでに澪の存在が在る。
澪の心情だけが気がかりで――自分の想いはやはり黎にあるのだと会ってまた再確認していた神羅は、澪が許してくれるならば…生涯を飛ばして澪に頭を下げ続ける覚悟で、黎に澪の心情を問うた。
「澪さんが許してくれるなら…」
「…わかった。澪に全てを話してくる。だからもう逃げるな」
そう言われて、妖の頂点ともいえるべき立場の男から逃げ続けることなど本当はできないことは分かっていたのに、無様にひとり悩んで逃げ続けていたことが馬鹿馬鹿しくなって、腕に抱いた佳の顔を黎によく見せてやった。
「桂と言うの。私が名を付けたわ。いいでしょう?」
「桂…月の木の名か。そうか…今は月が出ていたな。…名の響きは俺の名にちなんで付けてくれたのか?」
「思い上がらないで。単に思いついただけよ」
強がると、そのつんけんした態度を懐かしく思ったのか――また黎に抱きしめられて、ふいに泣きそうになって声を詰まらせながら言った。
「お願い、澪さんが私たちが幽玄町へ行くことを拒んだら…ここで暮らすことを許して。お願い」
「…分かった。その時は俺がここに通い続ける。一年前と大して変わらないな」
「違うわよ。私はお主の妾のようなもの。全然違…」
「妾なんかじゃない。お前も澪も、俺の嫁だ。四の五の言わず待っていろ。必ず明日いい返事を持ってくる」
「…はい」
澪は本当に許してくれるだろうか?
この子と会った時、なんと言うだろうか?
――やっぱり怖くて、黎の袖をぎゅっと掴んで俯いた。