千一夜物語
「ここに本人が居るからちょっと恥ずかしいんだけど…私、黎明さんがすっごく好きなの」


「ええ…はい…」


「神羅ちゃんもだよね?ちょっと離れてみて、前よりもっと好きになったんじゃない?」


ずばり本音を言われてしまって口ごもると、さすがに黎も恥ずかしくなったり気まずくなったりで頬をかいて俯いてしまった。


「赤ちゃんができてどうしようって悩んじゃったんでしょ?自分のことより私のことを心配してくれたんじゃない?」


「だ、だって澪さん…あなたは黎の子を産めないでしょう?私が…産んでしまったから…!」


「うん、でもそれ時間の問題だったから。私か神羅ちゃんのどっちかが赤ちゃんを産んで、片方には産まれない。それが私だったってだけじゃない?」


…それはそうだが、好いた男の子を産みたいと思うのは人も妖も同じのはず。

思わず泣きそうになって目を潤ませた神羅の頭を撫でた澪は、にっこり笑顔でさらにずばっと切り出した。


「私のことを気にかけてくれてありがとう。でもそんなに気を遣う位なら、私が黎明さんを貰ってもいいの?」


「え…」


「澪、お前何を言…」


「黎明さんは黙ってて。神羅ちゃんは先に死ぬでしょう?でも桂ちゃんは半妖だからきっと長生きするよね。その時黎明さんの隣に居るのは誰?私ね、長期的に物事を考えることなんてなかったけど、考えたの。私を気遣って神羅ちゃんたちが離れて暮らすでしょ?そうすると黎明さんは会いに行くよね?私はもやもやするよね?それ位なら傍に一緒に居て、一緒に黎明さんを愛して支えていきたいなって思ったの」


「澪さん…」


「あなたは絶対に先に死んでしまう。黎明さんはまた壊れてしまうかもしれない。あなたは私を気遣いながら黎明さんを好きで居続ける。そしてやっぱり私はもやもや。ねえ…それ位なら一緒に居ようよ。私、神羅ちゃんのこと好きだよ。神羅ちゃんがもし私のことを嫌いなら…」


「き、嫌いなんかじゃないわ!澪さん、私が傍に居ていいの?本当に?」


「もう!しつこい!でもね神羅ちゃん。あなたが天寿を全うした時は私が黎明さんを貰います。独り占めします。それでもいいなら一緒に居て下さい」


――難しく考えていたのは自分だけかもしれない。

神羅は涙を零しながら澪の手をしっかり握った。

澪はにこっと笑って、言ってのけた。


「私、黎明さんの赤ちゃんは産めないけど、桂ちゃんのふたり目の母になるつもりだから!」


ふんぞりかえってそう宣言して、ふたりを笑わせた。
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