千一夜物語
心の底からほっとした。

三人とも胸を撫で下ろして、指を吸って眠っている桂を覗き込んでその愛らしさに頬を緩めた。


「話がまとまったところでひとつ俺から言いたいことがある」


「なあに?」


「俺の家は由緒ある血筋の家だ。まだ桂が幼い間にこのことを親父たちに伝えてしまえば…命の危険が伴うかもしれない。半妖だと知られたら何が起きるか…」


「そんな…!黎、どうすれば…」


「いくら柔軟な考えの親父でも何をしでかすか分からない。だから桂が大きくなるまではこのことを伏せておきたい。桂が力に恵まれれば後はどうにでもなる。強さこそが重要視されるからな」


「うん、私はそれでいいよ。でも黎明さん、百鬼のみんなにはどうするの?口止めするの?」


「元々百鬼はここで見たこと聞いたことを外部に漏らさぬよう言いつけてある。俺からさらにもう一度箝口令は敷いておくが、もし知られたら…そうだな、親父と一戦交えるか」


黎はあっけらかんとそう言ったが――言うほど簡単なことではない。

父は歴代当主の中でも気まぐれで奔放ではあるがその男ありと言われた実力者で、隠居した今も力は全く衰えていない。


「黎…大丈夫なのね?」


「お前たちは心配するな。ようやく…ようやく俺の思うようになったんだ。もう絶対に誰にも邪魔はさせない」


神羅は反射的に桂を強く抱きしめて、唇を噛み締めた。

澪は神羅の背中を撫でてやりながら瞬きもせず桂に見つめられて微笑みながら、自身の胸を見下ろした。


「ねえ神羅ちゃん。私、お乳が出そうな気がしてきた!後で試してもいい!?」


「ええ!?で、出ないと思うけれど…」


「ちょっと!ちょっとでいいから!」


深刻な空気が消し飛び、黎はため息をつきながらもやっと実現した三人…いや、四人での暮らしに思いを馳せて笑った。
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