千一夜物語
帝位に就いてからは食事の際は毒見係が居て、ひとりで食べるものだった。

だが今目の前には澪が居て、桂が居る。

食べきれないほどに沢山並べられた料理はとても美味しそうで、久々に料理を振るったものの満足の仕上がりで食が進んだ。


「美味しい!神羅ちゃんたくさん食べてね」


「ええ。本当に美味しい…」


「ねえ、朝方黎明さんが戻って来るんだけど、お風呂に入った後いつも寝るの。神羅ちゃん、親子川の字になって寝たらどうかな」


思わずすまし汁を吹き出しそうになった神羅がむせると、澪は煮物の芋を口いっぱい頬張りながら笑った。


「私は神羅ちゃんの分まで黎明さんと寝てたからしばらくの間は一緒に寝るといいと思うの。ねっ、そうしたら?」


澪の厚意は嬉しいが…未だどう接していいのか分からない神羅は戸惑って傍の桂に目を落とした。


黎明――澪が気軽に黎の真名を呼んでいるのもちょっと羨ましいし、呼んでみたいが恥ずかしくてきっとどもってしまう。


「いい…の…?」


「私たちふたりとも黎明さんのお嫁さんなんだし、いいんじゃない?ていうか三人で寝たいって毎回言ってる位だから、いつかはそうしようよ」


「ふふ、ええ、そうね」


黎からすれば実家の両親と二番目の妻の三人で寝ているのは普通の光景だっただろうし、違和感はないのかもしれないが、こちらからすればありありだ。


「なんていうか…私たちは普通の夫婦の形ではないのね」


「うん、私もそう思うよ。でもいいんじゃない?そういう家柄の方を好きになったんだから私たちの負け!


本当に澪の言いざまが清々しくて、話していると楽しくて、さらに食が進んだ。

勇気を振り絞って戻って来て良かった――心からそう思った。
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