千一夜物語
一緒に少し眠って陽が完全に昇った頃神羅と共に部屋を出た黎は、一緒に昼食を食べようと思ってまた食卓いっぱいに料理を並べていた澪を呼び止めた。


「澪、少しいいか?」


「うん。神羅ちゃんおはよう。よく眠れた?」


「はい。澪さん、こっちへ来て下さい」


首を傾げながらも縁側にやって来た澪と座った黎は、先程寝る前に神羅と話し合った縁談の件を澪に告げた。


「祝言!?挙げてくれるの!?」


「なんだそれは。お前は俺の許嫁なんだし、お前のあの頑固親父にもちゃんと挨拶をしないとな。その後神羅との祝言をささやかだが挙げる。どうだ?」


「ああ…なるほどー。うん、そうだね、お父様たちも喜ぶと思う!でも黎明さんのお父様たちも来るんだよね?緊張しちゃう…。その時神羅ちゃんたちはどうするの?」


「私はどこかの部屋に隠れているわ。見つかると何をされるか分からないから」


「そうだね、うん、その方がいいと思う。大丈夫だよ神羅ちゃん。すぐ済むから!祝言って言っても両家の顔合わせってだけだから」


神羅がはにかむと、黎はさっそく行動に移した。

まず三人で日程を決めて両親に文を書いて烏天狗に託した。

花嫁衣裳なども決めなくてはならず、伊能と段取りをつけようとした時――平安町の方から大きな鐘の音がした。


「なんだあれは」


「帝が死んだことが朝廷と平安町に伝わったらしい。しばらくは大混乱になりそうだぜ」


牙からの報告に黎は神羅と顔を見合わせて、その細い肩を抱いた。


「きっとうまくいく。お前は何も心配するな」


「…私は全てを投げ出したのだから、胸が痛むわ」


「お前は背負わなくていいものばかりを背負ってきた。お前が居なくとも、お前の代わりができる連中なら居るはずだ。放っておけ」


私が居なくても世界はちゃんと回っている――そう思ったのを思い出した。


「そうね…そうよね」


三人で手を繋ぎ合って、鐘の音を聞いた。
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