千一夜物語
神羅と共にできる限り食事を共にした。

時には一緒に酒を飲み、意外と酒の強い神羅と縁側で談笑しながら桂を腕に抱くのが何よりの楽しみだった。

そうしているうちにやはり好きな女に触れたくて抱きたいと思う欲求が沸き上がるのは自然なことで、どう切り出そうかと迷っていた時、その文は届いた。


『祝言当日、そちらに着く』


父からの文で、舌打ちをした黎は神羅をどう隠そうかと考えて頭を悩ませていた。

人の匂いというものは、なかなか消えない。

見た目だけで言うと神羅は鬼族といっても過言ではない美しさを備えているため、外見で騙せる可能性は高い。


だが近くで匂いを嗅がれたりすれば――すぐに人だと知られてしまう。


「黎…私はどうすれば…隠れているだけでいいの?」


「…もう隠すのはやめよう」


「え…?」


「お前の人臭さを消す。それでなんとか誤魔化せるはずだ」


「人臭さ?どうやって消すと言うの?」


黎は神羅の腕を引いて自室に連れ込むと、顎を取って上向かせた。


「これから三日三晩、お前を抱く。俺の匂いをお前につけることで、お前の人臭さを消す」


「み…三日三晩…!?れ、黎…それはさすがにちょっと…」


「正直俺ももう限界だった。お前を見ているだけではもう満足できなくなっている。神羅…俺に抱かれてくれ。もう耐えられない」


黎の匂いをつけることで、人臭さが消える――

神羅もまた黎の限界を悟っていた。

そして自身の限界も。


「黎…明…私は…それでいいわ。私もそろそろ限界だったから」


「そうだと思った。俺を見るお前の目がいつも濡れていたからな」


そして久々に、黎に抱かれた。
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