千一夜物語
人臭さを消すのは本当だが、他にもきっと手段はあったはずだった。

己の神羅に寄せる感情をなんとか伝えようとした結果だったが――神羅は受け入れてくれた。


千夜、一夜、主さまを想う――


あの時そう言ってくれた神羅を腕に抱いて、熱い吐息をつく恍惚とした表情がとても愛しくて、舌を絡めながらあの時以上に激しく神羅を求めて止まることはなかった。


業平にたった一度とはいえその身を委ねた神羅を責める気はなかったが、そうせざるを得ないほどに神羅がその身に責務を背負っていたこと――今は全てを投げ打って自分を選んでくれたこと…全てに感謝していた。


「黎明…っ!」


「もう二度と、俺から離れるな…!もう絶対に離さない…!」


「離れない…絶対に…!」


桂はすやすやと眠っていた。

食い尽くしてしまいそうな勢いで神羅を貪って、神羅からどんどん人間臭さが抜けていった。

これならば誤魔化せる――

細い首筋に唇を這わせながら、安堵した。

今も昔も、これは許されざる恋だ。

許されざる恋だからこそ、燃え上がる。


「黎明…もう、駄目…!」


「駄目じゃない。三日三晩同じことを繰り返す。百鬼夜行に出ている時以外はお前とこうして過ごす。そうでなければ人臭さは抜けない」


もう十分人臭さは抜けていたのだが、神羅を抱き続けたいがために嘘をついた。


「頭が、おかしくなりそう…!」


「なっていい。お前の気が触れたらここに閉じ込めて、誰にも会わせない」


並々ならぬ独占欲――

その業火に焼かれて、神羅もまたどんどん黎に堕ちていった。
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