千一夜物語
澪の天真爛漫さは神羅にはなく、まだ若いとは言え気の利いた娘だと思う。

救われたのは、ふたりの仲が良いこと。

自分の母とふたり目の妻も仲が良く、ただ過去の当主の妻たちはそうではない者たちも居たらしい。


――澪との祝言当日まで、黎は神羅を傍に置き続けて自身の匂いで神羅の人臭さを排除していた。

おかげで神羅は本当に鬼族の女にしか見えなくなり、澪は目を丸くして神羅の周りをちょろちょろしていた。


「すっごい…!神羅ちゃん実は鬼族なんじゃ…」


「違います!黎…私はこれからどうすれば?」


「親父には二番目に嫁にしたい女なら居ると以前伝えていたから、お前は堂々としていればいい。後は俺に任せろ」


黎は伸びた髪を切り、家に伝わる家紋付きの黒の着物を着て縁側に座っていた。

澪は日頃幽玄町によく出かけていたため黎の嫁であることは周知の事実であり、祝言を挙げると聞いた住人たちが魚や新鮮な野菜、肉などを次々と届けてくるためてんてこ舞いになっていた。


「主さまー!来たー!」


…とうとう父たちがやって来たと聞いた黎は、澪と共に玄関に出て止まっていた牛車の中から出て来た父に小さく笑いかけた。


「黎明、なかなか見事な町じゃないか。やはりやればできる子だったな」


「馬鹿言ってないで上がってくれ。母さんたちも」


次いで出て来たふたりの女を見た澪は、手を取り合って下りてきたその仲睦まじさに自分も神羅とあんな風になろうと鼻息を荒くしながら黎の父に頭を下げた。


「はじめまして、澪と申します」


これは所謂政略的な縁談だったが、黎が澪の肩を抱いて笑い合ったため、黎の父は満足げに頷いて屋敷に上がった。


「嫁御殿のお父上たちはまだかな?」


「まだだ。親父、会ってほしい女が居る。こっちに来てくれ」


「ほう?」


黎そっくりの美貌が眉を挙げて廊下で足を止めた。


「ふたり目の嫁か?」


「そうだ」


――桂は伊能に託して隠してもらった。

絶対に大丈夫――

縁側で待っている神羅の元へ父を連れて行った。
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