千一夜物語
神羅は背筋を正して広大な庭を見つめていた。
多少化粧をして、薄く紅を引いた。
薄桃色の打ち掛けを羽織って白い息を吐いていると――視線を感じて居間の方を見た。
「おお、これは美しい。そなたが息子のふたり目の嫁か」
「お初にお目にかかります。桃花(ももか)と申します」
――地獄耳の父がもし帝の名を知っていたらと考えた黎は、神羅に偽名を名乗らせた。
なんとも人好きのする笑みを浮かべた黎の父は、神羅の前にどっかり腰を下ろしてじろじろ顔を見つめた。
「どこのお嬢さんかな?こんな美しい娘さんが居る鬼族の家か…記憶にないが」
「名家の出じゃない。だから親父に言おうか迷っていた」
「ふむ、こちらとしては鵺使いの澪嬢にも嫁に来てもらったのだからなんら問題はない。…しかし黎の匂いが染みついているな。よく可愛がってもらっていると見える」
そう言われて思わず顔を赤くして俯いた神羅がなんとも初心で黎と黎の父が和んでいると――黎のふたりの母が澪の両脇をむんずと捕まえた。
「!?あ、あのっ」
「さあ花嫁衣裳を着ましょうか。旦那様、私たちにお任せ下さいな」
「うん、頼むぞ」
「さっ、そちらのお嬢さんも」
「えっ」
神羅が目を見開いて声を上げると、黎の母は妖艶な美貌に無邪気な笑みを上らせて手招き。
「お嫁さんがふたり居るのだから何も分けて祝言を挙げる必要はないでしょう?さあこちらへ」
…これには予想外だった黎が腰を浮かすと、黎の母、ぴしゃり。
「黎明、あなたは座っていなさい。今殿方の出番はありません」
「あ…ああ、ん、分かった…」
母、強し。
多少化粧をして、薄く紅を引いた。
薄桃色の打ち掛けを羽織って白い息を吐いていると――視線を感じて居間の方を見た。
「おお、これは美しい。そなたが息子のふたり目の嫁か」
「お初にお目にかかります。桃花(ももか)と申します」
――地獄耳の父がもし帝の名を知っていたらと考えた黎は、神羅に偽名を名乗らせた。
なんとも人好きのする笑みを浮かべた黎の父は、神羅の前にどっかり腰を下ろしてじろじろ顔を見つめた。
「どこのお嬢さんかな?こんな美しい娘さんが居る鬼族の家か…記憶にないが」
「名家の出じゃない。だから親父に言おうか迷っていた」
「ふむ、こちらとしては鵺使いの澪嬢にも嫁に来てもらったのだからなんら問題はない。…しかし黎の匂いが染みついているな。よく可愛がってもらっていると見える」
そう言われて思わず顔を赤くして俯いた神羅がなんとも初心で黎と黎の父が和んでいると――黎のふたりの母が澪の両脇をむんずと捕まえた。
「!?あ、あのっ」
「さあ花嫁衣裳を着ましょうか。旦那様、私たちにお任せ下さいな」
「うん、頼むぞ」
「さっ、そちらのお嬢さんも」
「えっ」
神羅が目を見開いて声を上げると、黎の母は妖艶な美貌に無邪気な笑みを上らせて手招き。
「お嫁さんがふたり居るのだから何も分けて祝言を挙げる必要はないでしょう?さあこちらへ」
…これには予想外だった黎が腰を浮かすと、黎の母、ぴしゃり。
「黎明、あなたは座っていなさい。今殿方の出番はありません」
「あ…ああ、ん、分かった…」
母、強し。