千一夜物語
澪と神羅ふたりとも白無垢だったが微細な刺繍や打ち掛けが異なり、それぞれの好みが出ていた。


黎の母ふたりと話をすることで、澪たちの中でこういった仲になりたいという思いがより強くなり、つのかくしを被って座っていると、黎が様子を見にやって来た。


「ああ…これは化けたな」


「化けただなんてひどい!黎明さん、私もし…桃花ちゃんもきれいでしょ?可愛い?」


「ん、可愛いしきれい……だ…なんだ、じろじろ見るな」


母ふたりににやにやしながら見られて恥ずかしくなった黎が部屋を出て行くと、皆でぞろぞろと大広間に移動していよいよ祝言を挙げることとなった。


ただの形式なのにものすごく緊張して、鬼族の祝言の習わしに沿って三人で盃を手にした。


やはり人の祝言とは違い、祭壇もなければ神職の者も居ない。

祓詞もなく、ただ両家が顔を揃えて三人の前に座り、三々九度を行う――それで済むらしい。

問題はその後の酒宴だ。

神羅以外、皆が鬼――酒豪揃いで酔い潰れる者など居るはずもなく、黎はただただそれが心配だった。


「さあさあ、盃を」


黎を真ん中にして座った澪たちは、三人で顔を見合わせて同時に酒を口にした。

鬼頭家の嫁として生きてゆく――

その決意を同じくする祝言なのだな、と思った。


「黎明よ、夫婦喧嘩は程々にして仲良く暮らすのだぞ」


「言われずともそうする」


ふんと鼻を鳴らした黎に皆が笑みを誘われて、頑固親父――澪の父ににっこり笑いかけた黎は、徳利を揺らした。


「お父上、一献いかがですか」


「おお、これはありがたく。あなたのような美しくお強い方の元へ娘を嫁がせることができて夢のようですぞ」


黎は内心舌を出しながらさらににっこり。


「いえこちらこそ。これからよろしくお願いします」


外面、全開。
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