千一夜物語
神羅が言葉に詰まると澪が話し、黎の母は最後まで口を挟むことなく話を聞いた後、ぽんと膝を叩いた。


「分かりました。ではその子が成長するまでこのことは秘密にしましょう」


「ほっ、本当ですか!?ありがとうございます!」


澪が勇んで頭を下げると、神羅も慌てて桂を抱えたまま頭を下げた。

神羅の母は神羅に両手を伸ばして微笑んだ。


「私にも抱かせて下さいな」

「はい…」


桂を抱っこした黎の母は、その黒瞳に宿る妖気の塊が星のように瞬いているのを見て笑った。


「まあ…旦那様や黎明にそっくりな目をしていますね。これならば大丈夫でしょう。この子は美しくなり、強くなります。あなた方ふたりで大事に育ててゆくのですよ」


「はい…ありがとうございます」


また神羅が涙ぐむと、澪が笑いながら背中を撫でてやった。

黎の母はそんなふたりの仲睦まじい様子に、澪の努力を見た。


「澪さん…あなたもとても悩んだでしょう?それでも黎明の傍に居てくれることを選んでくれたのですね?」


「はい。でもそんなに悩まなかったですよ!あーっ、私が産みたかったけどまあいっかーって!」


ふふっと笑った黎の母は、桂を神羅に返して立ち上がった。


「旦那様はとても鈍感な所もあるからきっと悟られませんよ。明日早朝には発ちますから後は私にお任せ下さいな」


「はい…よろしくお願いします」


ようやくほっとして微笑んだ神羅の美貌に黎の母はおどけたように片目を閉じた。


「あなたは私似ですね。息子は母に似た女子を選ぶというけれど、間違っていませんでした」


「ふふ…恐縮です」


「さあ戻りましょうか。あまり席を外していると疑われてしまいますからね」


涙で崩れた神羅の化粧を澪が直し、再び伊能に桂を託して大広間に戻った。
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