千一夜物語
澪と神羅が黎の部屋に入ると、まず澪が吹き出した。


「ふふっ、お布団がおっきーい!」


「牙の仕業らしい。三人で寝るにはこれ位がいいだろう、とか言っていた」


「あ、あの、黎…私は三人で寝るのはちょっと…。桂も居るし、自分の部屋で寝るから」


「まあ待て。ちょっとここに座れ」


黎は目の前に座った澪と神羅に笑顔を向けた後、膝に乗せていた桂に目を落とした。


「皆でこの子を大切に育てていく。まだ親父にはばれていないが、いずれ知られることになる。それまでの間に俺がしっかり稽古をつけていく。お前たちの協力が必要だ」


黎はまだ母に知られていることを知らなかったが、澪と神羅は黎の心配事を増やさないように伏せていようと決めていたため、黙って頷いた。


「澪…お前が顔に入れ墨を入れてここへやって来た時は本当に驚いた。その時の俺ははっきりしない男で嫌だっただろう?」


「嫌だなんてそんな…。でも黎明さん、順番的には私の方が後だから、私が間男…じゃなくて、間女だもん。仮面の方だって知らなかったけど、いつの間にか好きになっちゃってたし…」


「俺もお前が離れて行こうとした時、ようやく己の気持ちに気付いた。その蔦の入れ墨…俺は好きだから、もう隠すな」


満面の笑みで頷いた澪の頬を撫でた黎は、今度は神羅に向き直って桂を抱かせた。


「鬼族より鬼らしい人の女よ。俺はお前の生涯を俺だけのものにする。老いても、動けなくなっても、お前は俺のものであり、何があっても離さない。だから、俺に全てを捧げてくれ」


「…私の主さま……」


言葉を切った神羅は、忘れ形見となる桂を愛しげに見つめた後、黎を見据えてふわりと笑った。


「私の全ては黎明のもの。この身を賭してこの子を守り、主さまを愛し続けます」


――三人は手を取り合って誓い合った。


共に長い時を歩んでゆく――

何があっても。

この手を離さない、と。

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