千一夜物語

生まれ変わっても、また。

桂はすくすくと育った。

すぐに這えるようになり、立てるようになり、言葉も話せるようになった。

黎は相変わらず百鬼夜行を毎夜続けていて、きっとひとりでは寂しかっただろうが、同じ思いを共有できる存在が居る澪と神羅は手を取り合って黎を支えていた。


――黎と夫婦になって十数年が経った。

桂は黎そっくりの美貌で女を惑わせるようになり、百鬼夜行にもついて行くようになり、ひとりで行動するようになっていた。

幽玄町はますます発展を続けて、今や浮浪町と揶揄する者はなく、送り込まれた犯罪者たちは人が変わったように真面目に働き、礎となっていった。


「黎明、また桂が居ないの。どこへ行ったか知ってる?」


「さあ、最近は単独で出歩くことが増えているが…己の立場は弁えているから大丈夫だろう」


人と妖の間に産まれた半妖であり、いずれは次代の当主となって鬼八の封印をする――

幼い頃からそう言い聞かせてきたためそれには文句は言わなかったが、桂が唯一我が儘を言うことといえば…


『母様、弟や妹はいつ産まれるのですか?』


澪や神羅にそう聞いては困らせることがあり、直系の者には男子ひとりにしか恵まれないことはまだ本人に伝えていなかった。

それを伝える時は、代替わりして桂が当主となる時なのだ。


「最近すっかり大人っぽくなっちゃって。神羅ちゃんの色っぽさと黎明さんのきれいな顔が一緒になってるんだから仕方ないかっ」


――黎と出会った時神羅は歳が二十にもなっていなかったが、今は三十を半分ほど超え、妖艶さは日に日に増していった。

逆に澪は全く外見が変わらず、本当に歳月は流れているのかと疑うほど。

神羅は才女であったため桂に書道や人としての常識、弓矢の使い方も教えて日々を穏やかに暮らしていたが――


「ごほっ」


「神羅ちゃん大丈夫?最近よく咳してるけど…」


「ええ、大丈夫」


黎は縁側で眉を潜めていた。

今まで平穏な日々を暮らしていたが…嫌な予感がして、神羅から目を離さなかった。
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