千一夜物語
浮浪町に戻った黎は、玉藻の前から様々な報告を受けた後、庭に集結した妖たちに自身の報告もした。


「女帝に会ってきたんだが、途中どこの輩か分からない者の子分が現れて邪魔された。成り行き上だったんだが女帝に用心棒を任されたからしばらくの間ちょくちょく留守にする」


黎がこの町に来た理由はその女帝を食うこと。

なのにその女帝の用心棒を務めるという真逆の内容に玉藻の前が抗議の声を上げた。


「では黎様はそのどこの誰とも分からない者から女帝を守るのですか?わたくしは反対ですわ!わたくしたちと同じ妖なのですよね?」


「そうだがむやみやたらと人を食い散らかしているらしい。そいつを止めれば武器の製造をやめさせることもできるだろうから、そう考えると多くの仲間の命を救えるとも思わないか?」


至極まともなことを言いながらも、頭の中はあの神羅という女帝をどうやってかどわかして食ってやろうかわくわくしていたのだが、黎のその言葉に感銘を受けた面々は鬨の声を上げた。


「俺は黎様に従う!」


「俺もだ!黎様、命令を!」


「女帝をつけ狙う奴の正体が分かるまでは俺に任せろ。その後お前たちには十分働いてもらう」


――牙は、彼らが解散した後何故かずっとにやにやしている黎の傍に座ってくんくんと鼻を鳴らした。


「女の匂いがする。黎様早速あの女帝とや…」


「ちょっと噛みついただけだ。あとちょっと触ったな。なかなかのものだった」


手をわきわきさせてにやつく黎に牙が尻尾をばさばさ振りながら武勇伝を聞き出そうとしたが、玉藻の前はむっとして大きな胸を黎に突き出した。


「黎様!わたくしのも!」


「興味ない。とにかく留守にすることが多くなる。成功の暁にはお前たちにも女帝の骨くらいは食わせてやる」


「やった!」


むくれている玉藻の前の肩を抱いてぐりぐり頭を撫でてやるとすぐ機嫌が直り、相変わらずちょろいと内心笑いながら酒を煽り飲んだ。
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