千一夜物語
――必ず傍に生まれ変わるから、見つけて。


そう言った神羅の言葉を反芻しながら、幽玄町の外れに作った墓地に神羅を埋葬した。

それも何度も躊躇って、土を被せようとする度に止めて――澪に宥められて、ようやく埋葬を終えた。


「黎明さん…大丈夫…?」


「…ああ。俺もしっかりしなくては」


息を引き取る直前、神羅は確かに言った。


‟愛しています”と。


どうしようもなく暴れ回りたくなって、埋葬した日の夜の百鬼夜行は悪鬼の如く獰猛さで向かって来る敵を薙ぎ倒し、普段は華麗に避ける返り血を大量に被って屋敷に帰り、澪を戦慄させた。


嘆きが過ぎる黎が心配で常に傍にいて目を光らせていた桂だったが――黎から目的の蔵の鍵を貰うと、蔵に居る時は澪に黎を見てもらって文献を読み漁った。


母は、子はひとりしか恵まれないと言った。

ということは…ふたり目の母は子を産めないということだ。

今まで自分が無邪気に‟弟や妹はまだか”と訊く度に澪が胸を痛めていたのかと思うと申し訳なくなって、ひたすら文献を読み込んでいった。


「…あった…!」


数日をかけて調べた結果、知りたいことが書かれてあったものを見つけた桂は、しっかり蔵の鍵を閉めて自室に向かい、机に向かった。


「父様…澪母様…申し訳ありません」


ふたり宛てに一通の文を書いた桂は――その日の夜、消息を絶った。
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