千一夜物語
黎が上半身脱いだところで目を背けたのだが――自分でも驚くほど意外とばっちり見ていて、平常心を失いかけて何度も顔を叩いた。


「早く出て行きなさい!」


「お前が出て行けばいい」


…そうは言ってもこの姿で立ち上がってしまってはもう裸体を晒すようなもの。

少し離れた所で完全に寛いでいる黎を思いきり睨んだが、もちろんそんなことで出て行く男ではない。


「女だてらに帝か。さぞ気苦労が多いんだろうな」


「あなたには想像もできないでしょうけれど、私にしかできないことが多いのです。責任というものが…」


「その割には浮浪町と言って蔑んでひずんだ場所を放置しているのは何故だ?栄える場所には必ず存在するものだが、あの荒みようは凄まじかったぞ」


「…」


思わず黙り込んだ。

浮浪町が兵すら立ち入れないような暴力的な場所になってしまったことは知っていてどうにかしなければと思っていたのだが、即位して間もない自分にはどうにもできない問題だった。

そこをこの男が変えたというのだから、一体本当に何がしたいんだか――


「…あなたが変えてくれたのですね?その件については素直に感謝いたします。ありがとう」


「ただじゃないんだけどな」


「また対価ですか!いい加減に…っ」


ふわりと身体が浮かんだ気がした。

浮かんだ気がしたと思ったらすぐ近くに黎の冷淡でありながら無邪気な笑みを浮かべている顔があって、目が真ん丸になった。


「え…っ?お、お主、何を…」


「見て分からないのか?俺の膝に乗せたんだ」


「わ、私は帝ですよ!離しなさい!」


「これ位でがみがみ言うな、また噛みつくぞ」


肩にはまだ昨日黎に噛みつかれた傷跡がある。

そこをぺろんと舌で舐められてぞくっとした神羅がぎゅっと目を閉じると、黎はその後もぺろぺろと首筋を舐めたりして己が獲物の味を堪能した。


「この反応…お前生娘か」


「!私は元巫女です!当然のことでしょう!」


「ふうん、楽しみが増えた」


「お主の楽しみが増えた意味が分かりません!」


がみがみ怒られてもまるで気にならないし、気にしない。

唇位頂こうかと思ったが神羅が上せそうになったため、後のお楽しみとしてそれ以上何もせず、膝に乗せた神羅をべたべた触りまくってがみがみ怒られ続けた。
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