千一夜物語
本来帝とは男が就くものであり、多くの妻を後宮に収めて寵愛し、子をもうける。

だが神羅の後宮はがら空きであり、使われずにひっそりとした部屋を眺めて回った黎は、そこかしこに淀む気を次々と斬りつけてぼそり。


「飽きてきた」


「待って下さい。こんなに女子の霊が多いだなんて知りませんでした…。一度清めなければ」


「清められると俺が困る。簡単に出入りできなくなるからな」


あくまで自分至上主義の黎の反論を黙殺した神羅は、くるりと踵を返して部屋に戻ろうと歩き出した黎の袖を握ったまま問うた。


「成仏できぬ御霊や妖はまだまだ居るのですか?」


「ああ居る。こんなのきりがない。お前に害がありそうなのは優先で排除しているが…」


若干きゅんとしてしまった神羅は大きく咳払いをして自室に着くなり黎ににっこり笑いかけた。


「今日はもういいです。私は寝ますからお主も帰っていいですよ」


黎はきょとんとして、袖から手を離した神羅の手をしっかり握って逆ににっこり。


「馬鹿を言うな。妖というものはこれから活発になる。霊も同じだ。だから今夜はお前と寝る」


――お前と寝る、という言葉に過剰反応した神羅が顔を赤くして後退ると、意外と義理堅い黎は鼻を鳴らしてどっかり腰を下ろした。


「対価はお前を抱いて食うことだが、今の所はまだ待っていてやる。まあ齧る位のことはするが」


「私が寝ている間も傍に居るということですか!?」


「居るどころか…まあいいか、寝たいなら寝ろ」


含み笑いをして大量に用意させた酒を再び飲み始めた黎に呆れた神羅は弓を置いて天蓋付きの床にちらりと目を遣った。

まさか…いやそんなことはないと自身を無理矢理納得させながら床に身体を横たえたのだが…


考えが甘かったことを後で激しく後悔した。
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