千一夜物語
朝議とは退屈な時間だ。

すでに議題の可否は決定していて、自分は裁可をするだけ。

実質政を行っているのは摂政や関白たちであり、自分が考えて決めるものでもないらしい。


「帝?いかがされましたか?」


御簾のすぐ傍に座っている関白に声をかけられた神羅は、長々と続いている朝議に飽きていて扇子で顔を隠しながら首を振った。


「いいえ、なんでも」


…朝廷とは狸と狐の化かし合いのようなもので、腹の探り合いをする時間が多く、無駄な時が費やされる。

今もまさにそれを目の当たりにしていた神羅がぱちんと音を立てて扇子を閉じると、心得た関白がさっと袖を振った。


「帝はお疲れのご様子。本日はこれにていかがか」


拉致の開かない展開に関白も業を煮やしていたため少し怒気を孕んだ口調に朝議はお開きとなり、神羅は速足で廊下を歩いて帝に就いた時作ってもらった神社へと急いだ。


「全く…あれでは裁可すらできない」


寝台造りの建物から神社へ渡る時は少し緊張する。

大抵この瞬間を狙ってがしゃどくろが現れたためなのだが、今は倒されて骨もあの後清めて埋葬した。


神官衣に身を包んで神社の扉を開けると――そこには部屋の片隅に置いてある葛籠を開けて何やら物色している黎の姿があってどきっとして足を止めた。


「な…何をしているのですか」


「面白いものがないかと思ってな。これなんかいいな」


黎が葛籠から引っ張り出したのは狐面と鬼の仮面で、ふたつともかつて被ると良くないことが起こると言われてきれいに清めたものだ。


「それを…どうするのですか?」


「夜叉の仮面だけだと飽きる。これは貰っていくぞ」


ふっと黎と目が合って反射的に顔を逸らした神羅だったが、にやにやしながら肩を抱いてきた黎の手の甲を思いきりつねって払った。


「勝手に触らないで下さい」


「昨晩は一晩を過ごした仲じゃないか」


「な…っ、誤解を招く言い方はやめて下さい!」


「あれは今夜も現れるぞ。機を狙ってやっつけてやるか」


「それが!あなたの!役目ですからね!」


また肩を抱いてきた黎の手を、ぎゅうっとつねって睨みつけたが――いやな感じの笑みを止めることができず、存在を無視して祭壇の前に座って祈りを捧げた。
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