千一夜物語
妖も食事をするのか――

神羅がひとり夕餉を食べている間、黎は傍で神羅と同じものを作ってもらって食べていた。


「さすがに良いものを食っているな」


「妖も食事をするのですね」


「当然だとも。俺たちは味覚もあれば、腹が空く者も居る。種族によって食う物は違うが…鬼は大抵人だな」


「…」


「但し強い鬼ともなれば人など食わずともどうにでもなる。肉なら比較的なんでもいいし、全く食わずとも生きていける者も居る」


「霞を食べて生きている仙人のようにですか」


「食った方が腹が膨れるから食う者が多いというだけだ。ちなみにお前は俺が必ず食うからよその奴に齧られたりも駄目だからな」


豪快に酒を煽ってからから笑った黎にため息をついた神羅は、膳を下げてもらった後、灯りを消して床に横になった。

――今夜もあの丑の刻参り風な格好をした女が自分の髪を抜きにやって来るはずだ。

いっそのこと髪ではなく本体を狙えばいいのにと他人事のように思ったが、あの手の女は呪うことに執着を覚えると聞いて布団の中で息を潜めていた。


が…

当然のように黎がまた床に潜り込んできて覆い被さられるようにして抱きしめられると、さすがに悲鳴を上げそうになって片手で口を覆われた。


「しっ。静かにしていろ」


「で、ですが…!」


「すぐ傍まで来ているぞ。声を聞いても悲鳴を上げるな。動くな。全て俺に任せろ」


黎の破綻した性格はともかく、信頼はしている。

神羅がじっと息を潜めていると――女の声がすぐ傍で聞こえた。


「うらめしや…恨めしい一族を我が手で根絶やしに…」


怨嗟にまみれた声。

息遣いさえも聞こえてきそうな距離でただただじっとしながらも、唇が触れ合いそうな距離の黎のぎらぎらした目に見惚れていた。

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