千一夜物語
少し眠った後目覚めると、すぐ傍には火車や牙、そして玉藻の前が獣型になって真ん丸になって眠っていた。

幼い頃からこういった獣型の妖などが傍に居る環境で育った黎は、彼らのふかふかの身体を撫でた後、目覚めるのを待っていたのか庭の木に止まっていた真っ白な烏が羽ばたいて近寄ってきたのを見て、身体を起こした。


「烏天狗か、何か分かったか?」


「はい。帝の周辺を嗅ぎまわっているのは…どうやら悪路王(あくろおう)のようです」


――悪路王。

鬼族の者であり、盗賊を生業とする暴力を最も好む男であることは知っているが、対面したことはない。

巨体を武器に体術にも長けているが、悪路王もまた人と妖の境界線は守っていたはず。


「悪路王か。それが親玉だな?」


「はい。遠野を拠点として理由もなく人を襲い、遠野から逃げ出す者が多いようです。黎様…いかがなさいますか?」


「居場所が分かれば乗り込むのが定石だろう。よくやった」


ぴょんぴょんと跳ねながら近寄ってきた烏天狗を抱き上げて膝に乗せて撫で回していると、牙が欠伸をしながら黎の膝に顎を乗せた。


「黎様、行くのか?」


「ああ、そいつを殺せば邪魔者が居なくなる。後は神羅を美味しく頂くだけだ」


「とか言っちゃって気に入ってんだろ?食えるの?」


「食うとも。あれの隅々まで俺のものだからな。思いの外想像以上にやわらかくて、あれを見ていると喉が鳴ってしまう」


「ふうん、超お気に入りじゃん」


黎がこうしてひとりの女に執着するのは珍しい。

応援してやろうと心に決めて一緒に烏天狗を撫で回していると、玉藻の前が九本の尻尾をばたばた動かして苛ついていたのを見た黎は、玉藻の前を抱き上げてぶらぶら揺らした。


「これが終わったらちゃんとお前を構ってやるから協力してくれ。いいな?」


「は、はい…」


にこっと笑うとうっとりした玉藻の前に、‟ちょろい”と内心舌を出しながらまた寝転んだ。

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