年下御曹司は初恋の君を離さない
8
「……友紀ちゃんの、嘘つき」
「ん? 嘘つきなんて心外だなぁ。俺が未来さんに嘘をつく訳がないでしょ?」
可愛らしい笑顔を向けてきても無駄だ。胡散臭すぎる。
フイッと友紀ちゃんから顔を背けると、目の前の友紀ちゃんは困っている様子だ。
それでも視線を逸らし続ける私に「未来さん、怒らないでくださいよ」と彼は懇願してくる。
(ちょっとぐらい困ればいいのよ!)
私はやさぐれながら流れる景色に視線を向けた。
今、私たちは隣の市にあるデパートに向かっている。その催事場で『和菓子博』なるものが開催されているという。
友紀ちゃんに誘われたときは断固として拒否しようとした私だが、『迷って行けないかもしれない』などと泣きつかれてしまい渋々行くことになってしまった。
だが、よくよく考えれば友紀ちゃんは日本育ち。そして、この土地にも詳しいはずだ。
確かに日本を離れていた時期もあったのは確かだろうが、日本に戻ってきて数年経っているはずである。
今でさえ御曹司として、そして小華和堂の副社長をしている彼は車通勤かもしれないが、その前は工場勤務だってしていたし、支社の営業もしていたこともあるという。
そんな人間が『電車に乗り慣れていない』訳がないのだ。