年下御曹司は初恋の君を離さない
「また揺れるかもしれないから、捕まっていて」
「え……とぉ」
戸惑っていた私の手を友紀ちゃんは強引に掴むと、私の手を優しく引く。
そして、私を扉付近の隅に立たせた。
「友紀ちゃん?」
未だに手を繋がれていて、どうしたらいいのかわからず、彼の名前を呼ぶ。
すると、彼は爽やかな笑みを頬に浮かべて言った。
「ずっと夢だったんですよね」
「え?」
ギュッと私の手を握りしめながら、友紀ちゃんは困ったように眉を下げた。
そして、私を周りの乗客たちから隠すように、守るように身体を近づけてくる。
再び近づいた距離に、私は呼吸の仕方を忘れてしまう。
「こうして貴女を守りたかった」
「どういう」
意味? と聞こうとしたが、このシチュエーションで脳裏を過ぎるのは友紀ちゃんとの過去の思い出だ。
友紀ちゃんと初めて出会ったのは電車の中だった。友紀ちゃんが痴漢に遭っている現場に居合わせた私は、彼を―――その頃はまだ女子高校生だと思っていたが―――助けたのだ。
友紀ちゃんが再び痴漢に遭わないように、女である私は男性に見えるような格好をして彼を守っていた。
あの頃、私はずっと友紀ちゃんをこうして守っていたのだが、そのときのことを言っているのだろうか。
私が友紀ちゃんの気持ちを理解したことがわかったのだろう。彼は嬉しそうに頬を緩ませた。