年下御曹司は初恋の君を離さない

 どんなリアクションを取ればいいのかと戸惑い、心も体も、そして思考さえも止まってしまった私の耳に飛び込んできたのは、客引きの声だった。
 ハッと我に返り、私は慌てて彼との距離を離す。

「ほ、ほら。和菓子博に来たんだから、早く行こう!」
「……」
「ね? 友紀ちゃん」

 焦りまくっている私を見て、盛大にため息をついたあと、友紀ちゃんは肩をすくめた。

「そうですね。今日は和菓子を見にきたんでした」
「そ、そうよ。目的を忘れちゃだめでしょ?」
「和菓子博は隠れ蓑で、目的は未来さんとのデートなんですけどね」

 甘く囁いてくる彼の言葉には無関心を貫いて、彼の手を引っ張った。

「ほ、ほら! これ、すごいわよ。和菓子のアートだって」

 和菓子の材料などで日本の風景を表現してあり、目にも舌にも満足する一品だ。
 和菓子の世界も奥が深い、と眺めていると、友紀ちゃんも一緒になって商品を覗き込む。
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