年下御曹司は初恋の君を離さない

「本当だ、すごい」

 私たちが絶賛していると、その店の和菓子職人さんが声をかけてきた。

「ありがとうございます。見た目だけなく、和菓子としても美味しく召し上がっていただける品です。素材からとてもこだわっております」
「見ただけでもクオリティが高いことはわかります。でも、食べてしまうのは惜しいですよね。こんなに美しいのに」
「ですが、和菓子は食べてなんぼですから」

 そう言って苦笑する職人さんに、「確かに!」と友紀ちゃんは屈託なく笑う。

 今日は勉強のために和菓子博にやってきたわけだが、一個人として楽しむつもりなのだろう。
 肩の力を抜いているプライベート仕様の彼に、私の心がまた躍り出す。

 友紀ちゃんの新たな一面を見る度に、私の心は否応もなくドキドキしてしまう。
 それを誤魔化すように、真剣な表情を浮かべて和菓子を見つめる。
 だが、心の中はというと胸の高鳴りで思考回路は混線気味だ。

 その職人さんに「それでは」と声をかけたあと、ゆっくりと一つ一つのお店を見て行く。
 すると、友紀ちゃんが「あった。あそこだ」と目を輝かせた。
< 156 / 346 >

この作品をシェア

pagetop