年下御曹司は初恋の君を離さない
彼の視線の先を見つめると、和菓子業界に身を置いていない私でも知っている有名老舗和菓子店の幟がある。
彼の今日の目的の一つだったのだろうか。私が彼に視線を向けると、胸元から名刺ケースを取り出した。
「今日は勉強のためだけかと思っていました」
「確かにそれも目的の一つなんだけど、ここのお店はずっと気になっていたんだ」
「……友紀ちゃん。私、今日名刺持ち歩いていないです。スミマセン」
ビジネス交渉をするとは思ってもいなかった私は、名刺を持ってくるのを忘れていた。
自分の不覚さに肩を落としていると、友紀ちゃんは私の頭をポンポンと優しく叩く。
「あーあ、残念。秘書の顔に戻っちゃった」
「え?」
「まぁ、俺がプライベートの時間に仕事を持ち出したのがいけないんだけどね」
「でも……」
どこで取引先会社の面々と会うかわからない。それに、副社長である友紀ちゃんと出歩くのなら名刺を携帯していなければダメだろう。
いつもなら持ち歩いているし、前副社長である隆二さんと出歩くときは必ず携帯していたのに……
そこであることに気がついて、ハッと息を呑んだ。