年下御曹司は初恋の君を離さない
「それなら、なんとしても店主と顔見知りになりたいですね」
「そういうこと。だけど、いきなりビジネスモードで向かっても返り討ちされそうだから」
「だからこそ、プライベート仕様がいいってことなんですね」
「ご名答。もし、うまくいったときに、さりげなく名刺を渡すつもり。でもまぁ、今日は出番はないかもしれないね」
それだけ相手は手強いということなのだろう。
フンフンと頷いて納得していると、友紀ちゃんは私の顔を再び覗き込んできた。
「と、いう訳で。秘書モードはお休みってことで」
「……」
「このファーストコンタクト。未来さんにかかっているかもよ?」
「や、やめてよ! 緊張しちゃうから。それなら秘書モードの方がよっぽどいい」
慌てふためくと、友紀ちゃんはフフッと声を出して笑う。
「和菓子が大好きなOLさんが、プライベートで彼氏とやってきたっていう設定でよろしく」
「……なに、その設定」
「何って。嘘じゃないでしょ? 未来さん。未来さんは和菓子が大好きなOLさんだろう?」
「そこは否定しないけど」
「じゃあ、どこにも嘘はない」
口角をクイッと上げる仕草は、とても意地悪な男に見える。
実際、こんなふうに私の心を揺さぶってばかりの友紀ちゃんは、立派に意地悪な男だ。