年下御曹司は初恋の君を離さない
そこで出来上がったのは、女っ気をなるべく出さず仕事一筋な女史の久保未来である。
幸い、小華和堂には昔からの知人はもちろん、大学時代の知人も入社しておらず『あの出来事』について蒸し返されることはない。
それだけは本当にありがたく、感謝した。
もう、これで辛かった過去と決別できる。このまま、お一人様を突っ走ろう。
きっとできる。私ならできる……そう思っていたのに。
今、私は過去の出来事と対面している。予期せぬ出来事に、私の手は冷たくなってしまった。
ただ、友紀ちゃんが握ってくれている左手だけが、ぬくもりと勇気をくれている気がする。
(落ち着け、未来。もう……済んだこと。過去のこと。大丈夫、私は大丈夫よ)
何度も心の中で呟き、自分に言い聞かせていく。
あれは過去。私以外の人からしたら、別になんともない案件なのだと思う。
それは、目の前の彼にも同じことが言えるのだろう。
別に苦にすることもない。彼の心の中では、そう処理されているのだからこれ以上私を苦しめることはしないだろう。
だが、当時……身体が引き裂かれてしまいそうなほどの痛みを感じていたのは残念ながら事実だ。
過去に感じた苦しみと痛みは、あのときだけで充分だ。もう……味わいたくはない。
だから、私を無視してほしい。どうか……お願いだから見て見ぬふりをしていてほしい。