年下御曹司は初恋の君を離さない
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「ちょっと! 藤司さん」
「……」
「離して! 離してください!!」
階段の踊り場まで強引に連れられてきた私は、腕を大きく動かして藤司さんから逃れようとした。だが、男性の力に打ち勝つには難しい。
いくら大学生のときに男装の格好をしていても、やっぱり中身は女なのだと痛感したことは幾度もある。そのことを思いだし、私は唇を噛みしめた。
未だに私の腕を掴んだままの藤司さんを睨み付けたが、彼は私を見下ろして小さく嘆息する。
「どうして未来があの男の秘書に?」
「どうしてって……秘書だから、秘書なのよ」
藤司さんが言っている意味が全くわからない私は、彼と同様に自分でも意味がわからないことを口走る。
彼とこうして面と向かって話すのは、何年ぶりだろうか。
私が大学四年の頃が最後だから……六、七年ぐらい前だろう。
懐かしさも感じるが、私は未だに彼から与えられた傷が痛んで顔を顰めた。