年下御曹司は初恋の君を離さない
やることが酷い。卑怯だ。
グッと手を握りしめる私に、藤司さんは目を細めてほほ笑む。
「いいんだぞ、未来。お前は俺に会いたくなかった。それなのに、俺の言いなりになるなんて反吐が出るほど嫌だろう」
「……わかっているなら話が早いです。それに、その言葉、そのままそっくり藤司さんにお返しします」
「ん?」
「貴方の方が私と会いたくなかったんじゃないんですか? 女には見えなくて欲情しない私が、貴方の周りをうろついていたから。さぞ、うっとうしかったことでしょう」
「……」
「ようやく視界から消えて清々していたのに、どうして今頃になって再会したのかとガックリしているんじゃないかと。それなら、私を呼び出すなんてことはしなくたっていいのではないですか?」
早くこの場を立ち去りたかった。だが、それはできなかった。
藤司さんの目が怖いほど真剣だったからだ。意地悪な表情を浮かべていても、目が笑っていない。
きっと、本気で言っているのだと思う。
藤司さんの希望通りに私が動かなければ……このビジネスチャンスは木っ端微塵に消えてなくなる。
それがわかっているからこそ、私はこの場を立ち退くわけにはいかない。
なんとしてでも藤司さんの考えを変えなくてはと必死な私に、彼は名刺を押しつけてきた。