年下御曹司は初恋の君を離さない
にじり寄ってくる彼から逃げるように、私は一歩後ずさる。
そんな私に、彼は再び一歩踏み出して距離を縮めてきた。
あの頃は私が彼を見下ろしていたのに、今では見下ろされているなんて……
時間の経過と、驚きの結末に私の心は付いていかない。
「久保未来さん、二十八歳。独身。大学生の頃、貴女はそのキレイな髪をバッサリと短く切って、男らしい装いをしていた」
「っ!」
「それは、通学最中の電車で痴漢に遭うことが多かったから、そしてストーカーから身を守るための対策の一つとして、貴女は男性にも、女性にも見えるようなユニセックスな雰囲気を纏っていた。違いますか?」
「……」
この男は、私の過去を知っている。それも鮮明に。そして正確に。
だが、私の記憶が正しければ、目の前の人物と過ごした期間は本当に短いものだったはずだ。
それなのに、どうしてこうも細かく私のことを把握しているのだろう。
そう。目の前で、私の身近にいつもいたかのような発言に、私は視線を彼から逸らした。
そんな私を見てクスッと声に出して笑ったあと、彼は私の過去を分析していく。