年下御曹司は初恋の君を離さない

 電車に揺られること二十分。その駅を降りて徒歩五分の場所に、老舗和菓子店せせらぎ本店が存在する。

 ここ最近毎日のように訪れる私は、お店に入るのも慣れてしまっていた。
 それに、従業員の皆さんもとてもよくしてくれていて、居心地が良くて思わず長居してしまうほどだ。

「こんばんは」

 あと三十分もすれば閉店ということで、お客さんは誰もいない。
 だが、店内はこの数日で顔見知りになった女将さんと大将、そしてパートで働いているおばさまたちに笑顔で迎えられた。

「いらっしゃい、未来ちゃん。今日もお仕事お疲れ様ねぇ。それなのに、毎日のように呼び出しちゃって申し訳ないわぁ」

 今日も和服姿が似合っている女将さんは貫禄たっぷりで見た目はなかなかにキツく見える。だが、話してみるととても気さくで優しい人だ。

「いえいえ。これも仕事の一貫ですから」
「そう言ってもらえるとありがたいけど……どう考えても謙也の我が儘以外の何ものでもないように感じるけど」

 頬に手を当てて小首を傾げる女将さんに、私は力なく笑った。たぶん、その予想はかなり正しいと思いますとは言えず、ただ笑ってごまかす。

 すると、奥の方からスーツを着込んだ藤司さんが現れ、私を見つけた途端破顔した。
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