年下御曹司は初恋の君を離さない

「その種明かし、そろそろするから」
「え?」

 意味がわからず慌てて顔を上げたが、藤司さんは大将に「未来に出してやってよ、あの菓子」とお願いしていた。

 藤司さんは何を言い出したのだろう。種明かしとは一体なんのことなのだろうか。
 畠山さんに促されて言った『欲情する訳がない』という言葉に、種明かしをするほどの何かがあるというのか。

 唖然としたままの私に藤司さんは手招きをした。

「ほら、未来。こっちに来いよ。大将がお前だけに作った菓子があるから、食えよ」
「あ……ああ、はい」

 考えが求まらないうちに声をかけられ、私は曖昧な返事をした。

 店の奥へと進むと土間があり、そこで靴を脱ぐ。小上がりを上がると、黒光りした廊下を歩いた先には茶室があるのだ。
 その部屋で藤司さんはお茶を点ててくれ、大将が作った和菓子を頂く。

 それだけのために、藤司さんは日を置かず私に誘いのメールを入れてくるのである。
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