年下御曹司は初恋の君を離さない

『未来さん、今空港に着いたよ』
『お疲れ様でした、副社長。定刻通りの時間でしたね』
『今からタクシーに乗って会社に戻るから、もう少し待っていてね、未来さん』
『……お、お待ちして、おりま……す』

 最初こそクールな秘書の声で受け答えをしていた未来さんだったが、急に素の未来さんになった。それが嬉しくて仕方がない。

(貴女も、俺と会いたいと思ってくれていますか?)

 聞きたくなったが、今は止めておく。いますぐ未来さんに会いたくなって堪らなくなるのはわかっているからだ。

『ふふ、待っていてね』

 甘く電話口で囁くと、明らかに動揺している未来さんの息づかいが聞こえる。
 それが幸せで、ささくれだった心が浄化されるようだ。

 惜しみつつも電話を切り、俺は足早にタクシー乗り場へと急ぐ。
 今はただ、未来さんに会いたい。それだけだ。
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