年下御曹司は初恋の君を離さない
(まぁ、それならそれでいいのかもしれない)
彼女は男である久保未来に恋をしていた。
だけど、本当は私が女だと聞いたら……ショックを受けて傷つくことは目に見えている。
それなら、真実は知らぬまま。綺麗な思い出のままで終わらせた方がいいのかもしれない。
多感な時期だし、これから色々な人と出会うだろう。
そうすれば、いつの間にか私のことを忘れてしまうかもしれない。
ちょっぴり寂しい気もするが、それも仕方がないだろう。
あの年頃の女の子は、年上に憧れる時期だ。
淡い恋だった、と過去として処理されることだろう。
メッセージアプリを開いても、友紀ちゃんのアカウントはなくなってしまっている。
今までしていた会話もすべて消えてなくなってしまった。
これまでのことは、全部夢だったんだと思えるほど、潔すぎる去り方だった。
彼女とはもう、これで繋がる術はなくなったということだ。
ツクンと胸が痛むが、妹分のこれからの幸せを願っていよう。
喪失感を覚えながら、私はスマホを握りしめた。
だが、季節は巡り、月日も過ぎた今。
友紀ちゃんは再び私の前に現れる宣言をしてきた。
事実を話していなかったことを怒られるかもしれないが、誠心誠意込めて謝るしかほかない。
しっかりと説明をすれば、あの子ならわかってくれる。そう信じている。
だけど、緊張するのも本音な訳で……
とにかく、再会の日にすべてを話そう。
絵葉書をトートバッグにしまい込んだあと、「ただいま〜」と声をかけて家の中に入ったのだった。